
「殺し屋の日常と生活」を描く映画の待望の第3弾。
「この二人、これで最期」という不穏なキャッチコピーがついた今回の舞台は宮崎。
”最強”の殺し屋女子たちの前に”最狂”の敵が立ちふさがる!
果たして彼女たちはモラトリアムな毎日を守ることが出来るのか?
ある時期まで長いこと邦画を見ることから遠ざかっていた。もちろん話題の映画や好きな俳優が出てるものはちょいちょい見ていたのだが、どうも邦画特有の途中で中だるみするのが苦手で敬遠しがちだった。
そんな中たまたま見た「ベイビーわるきゅーれ」第1作は再び邦画を見るきっかけを作ってくれた大事な作品の一つである。
実際最近の邦画はかなりプロットや脚本・演出もしっかり作りこまれているものが多く、最後まで引き込まれるものが沢山作られていることを知った。
そして本作だが、前2作のヒットを受けて予算が潤沢になったせいか、宮崎でのオールロケを敢行し、キャストも前作以上に豪華になっている。
前作までの”知る人ぞ知る”感は薄れてしまった印象があるが、それを覆すだけの制作陣のこだわりや熱量が伝わる作品に仕上がっている。
ちなみに前2作はWOWOWでの視聴だったのでにわか感が拭えなかったのだが、今回ようやく劇場で見ることができたので少しは胸を張ってファンを名乗れるようになったかなと思っている。


またもや前置きが長くなったが、前作同様今作も主人公コンビに相対するキャラクターの登場場面から描かれているのだが、今回の敵役は池松壮亮演じる”冬村かえで”である。
小学生らしき子供が何かが腐敗したものを眺めている場面からいきなり血まみれのかえでが出てくるという不穏な演出で始まる。
ようやくメジャー映画に仲間入りしたという制作陣の作品に対する誇らしさみたいなものを感じて胸が熱くなってしまった。
その後場面はちさととまひろが宮崎の海を満喫しているシーンに切り替わるのだが、ここで彼女たちが”旅行のついでに殺しの仕事”に訪れていることが説明される。


余談だが、宮崎はちさと役の髙石あかりの出身地らしく、彼女は故郷に錦を飾ったことになる。とても素晴らしいと思う。
また宮崎県庁でのロケの許可等もそれが関係しているのではないかと勝手に推測する。
ご承知の通り髙石といえば急激に知名度が上昇し、映画やドラマの出演が増えた結果、NHKの朝ドラの主演まで決定している。
だが髙石の真骨頂といえばあの”顔芸”ともいえる豊富な表情にあると思っている自分にとっては、それも封印されてしまうことがあれば、それが非常に残念に思えてならない。
話は戻るが彼女たちが現地に到着したのは前日らしく、到着早々仕事をこなした場面が挟まれるのだが、今回はより以上に「ジョンウィック」的な銃とナイフを使ったアクションが展開される。


なかでも目を瞠ったのが髙石のアクションスキルのレベルアップである。
前作よりもよりシャープな立ち回りでメリハリのある動きを会得していた。きっと真面目なんだと思う。
シリーズの中でこの作品を初めて見たとしても、この映画の只者ではない感をいきなり披露してインパクトを与える狙いと、制作陣の自信の様なものが見て取れる。
そして今回も”殺し屋協会”についてまた少し描かれている。
今回の仕事は本来東京1位指名の”花染さん”なる人物(誰やねん)が受ける予定であったが、体調不良のため二人に仕事が回ってくるのだが、”出張”ということはこちらには支部がないんだろうかと思っていると、前田敦子演じる”入鹿みなみ”と大谷主水演じる”七瀬”が出てくる。


「???」となったがこの二人はいわゆる”粛清さん”であるということが判明する。そして田坂と宮内のチームは熊本に出張という激務についていることが明かされる。
清掃チームはもしかしたらいわゆる”野良”の仕事も請け合っていて、そうなると殺し屋の人数に比べて圧倒的に人員が不足しているのだろうか?などといらぬ心配をしてしまう。
そして今回須佐野は声だけの出演である。残念。
後は野良の殺し屋たちがコミュニティを作った”ファーム”という組織が出てくる。一匹狼のかえでが今回ターゲットの居場所を捜索するのに頼るのだが、こちらも相当の人数が確認できる。殺し屋業界には人手不足という問題はないらしい。
さて彼女たちはターゲットのいる県庁に向かうのだが、いざ到着してみると殺しの依頼がダブルブッキングされており、そのブッキングの相手は運の悪いことにかつてないほどの凶悪な相手であった。しかも客演のはずの池松が初っ端から全力のアクションを見せているのがシビれた。
”シン・仮面ライダー”のドキュメントでもかなりのアクションを披露していたが、今回はそれをさらに上回っている。
何よりも本人がすごく楽しそうに演じているんだろうことが伝わってくる。


白状するが、この時まひろの着ているフェンダーのTシャツの方が気になってアクションがあまり入ってこなかった。
結局まひろとかえでのタイマンになり、やや押され気味のまひろが必殺の”フェイント頭突き”を繰り出すのだが、まひろはこれを軽く見切り、まひろは窮地に立たされる。
しかしそんなまひろに対してかえでは止めを刺さずに冒頭の少年にもらったハンカチを差し出す。ちなみにこのハンカチはきれいに洗濯されていた。
”銃”と”ハンカチ”の2択を迫られたまひろはハンカチを選び、生き延びることを選択する。元々この戦い自体が不測の事態であり、かえでにしてもまひろは殺しのターゲットではないので見逃すことに何の疑問も持たなかったのだろうと推測する。
ちなみにこの頭突きとハンカチはクライマックスの伏線になっていて、制作チームのドラマ作りがかなりスキルアップしていることが窺える。
この直後にちさとは血まみれで倒れているまひろを発見し、恐る恐る手を伸ばすのだがこの時の演技が素晴らしい。
大切なパートナーでもあり友人を失ってしまったかもしれない恐怖を見事に表現している。さすがNHKの朝ドラ主演が決まるだけのことはある。
まひろの無事(?)が確認された後みなみと七瀬が登場し、ちさととまひろを合わせた四人でかえでを粛清することになるのだが、見事にみなみとちさとが反目し合ってしまう。


この時のみなみの”大義”という言葉に対してちさとが「大儀?将軍?秀吉?確定か?」と反応するのに対してまひろが「またパチンコ行ったの?」と即座に突っ込むのが可愛い。花の慶次は面白い
あと、現場で押収したと思われるかえでの銃を見てまひろが「変態だ~」と言うのだが、これはかえでの銃が自己流カスタムをしていたからという認識であっているのだろうか?自信がない。
ところで冬村かえでのキャラは”ちさとと出会わなかったまひろ”という裏設定があるように、かなり丁寧に人物像が描かれている。
仕事に対してのストイックな姿勢や”殺し”を芸術として自己表現の手段と考えていること、シチューを作って食べる姿など丁寧な暮らしを心掛けている(といっても部屋の中は殺した相手の返り血だらけで本人は部屋の中に設置したテントの中で暮らしているのだが・・・)描写に割と長い尺を取っている。
依頼を受けた今回の150人を殺す案件もすべて詳細に日記に残して自省しながら仕事をこなしている。
コミュ障がゆえに殺すことでしか人との関りを持てないことや、この仕事しか選べなかった事等がまひろとかぶるように描かれていて、もしもちさととの関係が上手くいかずに一人になってしまったらきっとまひろもこうなってしまうのではないかと思わせる演出が痛々しい。
事実かえでの部屋でサンドバッグを殴るまひろが一瞬かえでとシンクロしかけていた。
しかし幸いなことにまひろは誕生日を一緒に祝ってくれ仲間を得ていて、ハンカチを選んで生き延びる選択をする理由がそこにある。
そして今回ちさとがみなみに対して突っかかるのをまひろが止めに入っている。成長したなと思うのだが、敵の存在を見抜く根拠が”勘”であることは変わっていなかったりもする。
ちなみにちさとがかえでの仲介役に対して「もう拷問の口になっているんですけど」と言うセリフはちさとのサイコパスな部分を表現していてかなり面白かった。


殺しのターゲットがいるホテルのエレベーターでの勘違いフォーマル衣装での二人のやり取りも相変わらずで安心したし、田坂と宮内が粛清チームに雑用をさせられているのも協会のブラックさを実感させて嬉しくなる
宮内が田坂の意味不明な比喩を的確に理解していた描写が立場が逆転する未来を予感させている。あと前作と本作では宮内がマシンガンを「くたばれー!!」と言いながらぶっ放す場面が出てくるのだが、彼女は言動のみでなく実際に破壊衝動を持っているらしい。
かえではファームから送られてきた協力者を自ら殺害してしまったため、組織のリーダーの怒りを買って殺し合うことになってしまうのだが、一方のちさととまひろは彼女たちの実力を認めたみなみと和解している。これも皮肉な描写である。
そしてかえでは暴力とほぼ恫喝によって待望の仲間を得るのだが、恐怖によって得た仲間たちはかえでに対してよそよそしく、かえでは全くそれに気付かずに友達のように話しかける。とても悲しい。


束の間の休息の後、戦いに赴く前にまひろはちさとに向かって「どうなるかわからないから・・・向こうで待ってるから・・・向こうでも遊んで欲しいな・・・」と弱気を見せる。以前は「私に賭けろ」と強気な発言だったのだが・・・
これに対してちさとは「そんな約束しないよ」「もっとましなこと言え」と返す。
生死を賭けた戦いの前にこの会話をできる相手を得たことがまひろとかえでの最大の違いであることを表す見事な場面である。そしてまた今回も彼女たちは生還することを絶対条件とする”約束”を交わす。
まあ前田敦子はしょうがないとして、大谷主水もテコンドーをやっているらしいのだが撮影中に負傷をしたらしく今回は残念な結果となった。(ちなみに七瀬曰く”素手より銃を使う方が優しい”らしい。即死させないと同じな気がするが・・・)


しかしその分伊澤と髙石と池松のアクションがそれを補って余りあるほどに研ぎ澄まされていて素晴らしい。
伊澤が絶対的なフィジカルの表現をするのに対し、髙石もスキルアップしたアクションに加えて感情を演技で表現する。池松も二人を相手に渡り合う圧倒的な戦闘力をこれでもかと見せつけてくれる。
特にまひろに向けられたナイフを止めるためにちさとがなりふり構わずその刃を素手で掴む場面は滅茶苦茶”まひろを殺させない”という気持ちが伝わってきて自分的に泣けるほど感動した。
そしてまさかのちさとの頭突きで形勢が五分になるのだが、ちさとは頭突きキャラではないので気を失ってしまう。


今回まひろは敵といつも以上に会話を交わす。
かえでは”今まで殺した相手の強さランキング”、そしてまひろが”今まで出会った中でナンバーワンの強さ”であること。
まひろは”殺した相手のことは覚えていない”、”でも楽しかったと言われたことならある”、”猫好きの弟”と”蹴りのエグい兄貴”の兄弟のこと。「名前くらい聞いときゃ良かった・・・」と。
そしてかえでとまひろはお互いに名乗り合う。
名乗り合った後は二度と出会えないであろうほどの好敵手との戦いをお互い楽しむように、そして戦いが終わることを惜しんでいるように見えた。
そんな戦いも最後はまひろがフェイントからの頭突きをフェイントにしての(ややこしい)膝蹴りでかえでに決定的なダメージを与える。
互いに気を失うが、先に気が付いたであろうかえではなぜかまひろを殺さず目が覚めるまで座って待っている。
まひろは殺しの対象ではなく、自信のアイデンティティを賭けた戦いの相手として正当に勝負をしたかったのだと思う。
気が付いたまひろに対してかえでは言う。
「人を殺した日に家に帰って電子レンジを拭いたり、果物を切ったり、歯を磨いたりしていると自分が人間なんだって思えた・・・あんたには隣にいてくれる人がいて羨ましいな・・・」
そしてまひろはかえでに貰ったハンカチを「返す・・・」と差し出す。
銃とハンカチの選択を今度はかえでが迫られるが、結局銃を取ろうとしたかえでをまひろが撃つことで決着がつく。
”生き延びることを選んでハンカチを取ったまひろ”
”死ぬことを厭わずに戦うことを選んだかえで”
「やっぱそうだよな・・・」とつぶやくまひろが切ない。
この作品を観た誰もが思ったはずである。”もしかえでがハンカチを選んでいたらまひろは見逃したのだろうか・・・?」


最後の焼肉の場面は(特にみなみのウザ絡み)蛇足じゃないかと最初は思ったが、一瞬冒頭の少年が出て来てまひろが服に付いた血を拭くハンカチを見て、自分がハンカチをあげた人間がこの世にいないことを察するであろう場面で”ああそうか・・・”と納得してしまった。
そしてお約束の”イチゴのショートケーキ”。
食べるまひろが涙をこぼしながら「生きててよかった!」と言う場面で恥ずかしながら本当に泣いてしまった。”深夜食堂”で小林薫が「年を取ると涙もろくなっていけねぇ」と言うセリフを言っていたが、本当に良いセリフを教えてくれたものだ。それくらいこの場面の伊澤の演技は素晴らしかった。
ちなみに「ベイビーわるきゅーれ」がドラマ化されて、この作品の1年後の話として放映された。
こちらもかなり良い出来の作品でおススメである。
そしてキャストのスケジューリング等が影響するであろうと鑑みて次回作はあるのかないのかもわからない状況ではあるが、例え5年後、いや10年後であってもまたこのシリーズの新作が観たいと思う。
そう思える作品である。

| 監督 | 阪元裕吾 |
|---|---|
| 脚本 | 阪元裕吾 |
| 出演者 | 髙石あかり 伊澤彩織 池松壮亮 前田敦子 |
|---|
今回も長くなりましたが最後までお付き合いいただきありがとうございます。
やっぱりここまで来たら「エブリデイ!」まで行こうと思います。






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