
衝撃の問題作「ベイビーわるきゅーれ」の坂元裕吾監督がその3年前に撮影した原点ともいえる作品。
殺し屋と言う、普通じゃない彼の、普通の毎日を描いた作品。
”笑って泣いて悩んで恋をして今日も殺しに励みます”
ここ数年で一番好きな作品である「ベイビーわるきゅーれ」シリーズ。
その第1作で主役の二人に対してマネージャーの須佐野が何度か言及していた”京都から来た殺し屋の人”。
最初は何も思わずスルーしていたが、何度か観るうちにどうにも気になってきてネットで調べてみたらこの映画がヒットした。
”2018年、監督の阪元は女子二人組の殺し屋を描く新作映画『ベイビーわるきゅーれ』のシナリオに取り掛かっていた。
阪元は“関西殺し屋協会”という殺し屋ビジネスネットワークがある事を知り、シナリオ作りの参考に協会に取材を申し込む。
協会から紹介された人物は、京都最強と呼ばれるフリー契約の殺し屋・国岡昌幸(23)だった。”
とまあこんな感じの触れ込みで、これはまんま「ベイビーわるきゅーれ」の世界観ではないかと少しテンションが上がってしまった。
少し視聴するまでに時間がかかったが、何とか観ることができた。
形としては、フェイクドキュメンタリーである”モキュメンタリー”スタイルを取っており、なかなか思い切った手法ではあるが、低予算映画だったんだろうなと勝手に思いを馳せてみた。


主人公である国岡は、いたって普通でどこにでもいる感じの人物として描かれており、殺し屋と言う職業もそこまで特殊なものではないものとして設定されている。
殺し屋の内訳も細かく設定されていて、まずは国岡のように協会と自由に契約を結んで依頼を請ける”フリー”の殺し屋。バイトの殺し屋兄弟は協会の仕事を請けていたのでこれに当たると思われる。
そんな中でも国岡は人と関わるのが煩わしいのか、仕事の受諾からクレーム処理まで一人でこなしている。
次は協会に完全に所属して、シフト制で業務を行う”リーマン”。「ベイビーわるきゅーれ」だと須佐野や清掃班チーム、粛清さんや営業部、プロジェクトメンバー等が相当すると思われる。
あとは協会に所属せずに自由に依頼を請けて仕事をする”野良”と呼ばれる殺し屋。冬村かえではこれに当たると思われる。
「ベイビーわるきゅーれ」の二人は自由に仕事をしている感じがしたので初めは”フリー”かと思ったが、よく考えてみると協会のプロジェクトに強制参加させられたり、ジョブローテーションに組み込まれていたので”リーマン”枠だと考えられる。
さらに今作では「ベイビーわるきゅーれ」であまり描かれることのなかった他の殺し屋たちが出てくる。しかもどれもこれもが呆れるくらいに個性的と来ている。


個人的にお気に入りなのは”芸者アサシン”姐さん。いきなり街中でマシンガンをぶっ放すという闇の職業にあるまじき行為を行う。作風がまだ固まっていないのかとは思うが明らかにやりすぎである。


他には国岡の先輩殺し屋の”山崎”、ヒットガールに憧れて髪を紫に染めている”牧田”(次回作で名前のみ出てくる)、ヘタレキャラだが次回作以降出世を果たす”真中”、パンクな見た目だが実力はそこそこあると思われる”殺丸”、やたらとイケメンな”ドンヒャン”等とても書ききれないくらいである。


そんな中で国岡は没個性に描かれているかと言うとそんな事もなく、きっちりと主人公をこなしている。
彼の部屋には無造作に銃が置いてあったり衣類ボックスの裏からライフルが出てきたりする。
殺しの仕事に行くというのにオレンジ色のジャケットを着ていたり、挙句には買い物に入ったコンビニでの支払い時にベルトに付けた拳銃が丸見えになっても気にする素振りすら見せない。
極めつけは子供の声が聞こえるような、いつ警察が通ってもおかしくないような場所にライフルを放り出してターゲットが来るのを待っていたりする。


こう書くと仕事のできない天然君に思うかも知れないが、仕事の腕は一流なのが面白い。
最初に見せる仕事は長距離からの狙撃なのだが、必要最低数の弾丸でターゲットを仕留めて見せる。
しかしこの依頼は小学生の女の子が自分を叱った教師に対して腹いせのためにネットで発注したことが発覚する。そんなことで殺されたのではたまったものではない。女の子の母親が依頼のキャンセルを申し出るが、それはさすがに無理だろうと・・・(国岡曰く「もう終わっちゃってるんで。」そりゃそうでしょう)
国岡は母親に対して裁判で争う姿勢を見せるがそれ以前に殺人罪はどうなっているのかものすごく疑問である。


そして”ホワイトベアー”なる殺し屋グループ(これがまたなかなかのポンコツ揃いで笑わせてくれる)と仕事がブッキングしてしまい、一旦は彼らに仕事を譲るのだが、ターゲットである”伝説の殺し屋”に彼らが壊滅させられた後、仕事を引き継ぎきっちりと依頼を果たしている。
そんな国岡ではあるが、孤高の一匹狼の殺し屋という感じでもなく、この年代相応に毎日を謳歌している様子も描かれている。
友人と自宅で一緒に酒を飲みながらM-1を観たり、気になる女の子と人並みにデートをしてみたりと、ごく普通の暮らしを淡々と過ごしている姿が印象的である。
しかし殺し屋業界には不景気というものがないのかと思うほど国岡は次々と依頼をこなす。そのうちに抱えきれなくなった依頼を”外注”という名目で他の殺し屋に回すのだが、これがきっかけで国岡は窮地に立たされることとなる。
ある企業の女社長(かなりの悪徳らしく、この人物の殺しの依頼もあるらしい)より、自分を訴訟しようとしている人物を殺す依頼が入り国岡が受諾するのだが、あまりの多忙さに先輩の山崎に仕事の外注を出してしまう。
ところが山崎も仕事がブッキングしてしまい他の殺し屋にその仕事を外注で出してしまう(なんて命の軽い世界だ)のだが、その殺し屋が仕事をしくじってしまう。


女社長からのクレームに対応するため結局国岡がその案件に取り掛かることになるのだが、万全を期するために仲間たちに協力を依頼する。
国岡をリーダーとした臨時のチームでのミッションは途中トラブル等がありながらも依頼を果たすことに成功するのだが、ターゲットのボディガードたちとの間に遺恨を残してしまう。
しかも悪いことに依頼人とのやり取りの行き違いから実は全く関係のない人物を殺してしまっていたことが判明する。(無茶苦茶やな・・・)
逆上した依頼人はなんと国岡の殺しを協会に依頼してしまい、国岡は殺し屋とボディガード達から狙われることとなってしまうのである。
だが国岡は決して孤立無援という訳でもなく、ナイフ使いの殺し屋女子に襲われた時にはヒットガール牧田が駆けつけてくれるし、銃弾を華麗に避ける”ティモシー”との戦いでは偶然路上で酔っ払っていた殺丸の手を借りて撃退に成功している。

そして出張弾屋の古山を弾薬の補充のために呼んだりもしている。ちなみにこの古山はかなり可愛いのだがなかなかの商売人である。国岡の足元を見て法外な金額をボッタくっていた。(ツケ払いは倍額以上の請求!利子10割を超えるって・・・あと”諸々経費”は魔法の言葉)
翌日繁華街で国岡は二人いたボディガードの片割れと遭遇する。
ボディガードは取材班のスタッフを人質にして結婚式の二次会が行われている会場へと国岡を誘い込むのだが、なんと新婚カップルの新婦は以前国岡がデートしていた相手。国岡はただのオトモダチであったことが判明する。
しかしボディガードはそんなことお構いなしに会場の人間を巻き込んで銃撃戦を始めてしまい、二次会の会場は殺戮と阿鼻叫喚の戦場となってしまう。


ちなみにこのボディガードは”狂犬”というネーミングがピッタリなくらい危ないキャラとして描かれている。そしてそんなキャラらしく咬ませ犬として国岡に敗北する。
この戦いで出た死体の処理と生存者への口止めを業者に依頼した国岡は貯金が底をついてしまう。おまけに同時に失恋までした国岡は酒が入っているせいもあり、カメラに向かって心情を吐露する。
「いや努力した事はありますよ、いくらでもそりゃ。普通に会社行って、バイトもしてみたいな感じで。やろうとしましたけど、いや駄目だったんですよ全部。会社には真面目な陽キャしかいないし。だから人とスピードもあわないし、ペースも合わせらんないですよ俺。だからそういう人と合わせなくていいような自由な仕事だと思って、俺この仕事始めたのに、こっちにはこっちのルールが、もうガチガチで。結局自由なんかどこにもないじゃないですか。結局どこでもそうだから、生きていくのが難しいって話をしてるんですよ。皆が当たり前にやっていることが、俺にとっては当たり前じゃないし!みんなが普通にこなす事が俺にはできないし、当たり前とか普通の基準が高すぎるんですよ。マジで」と語る語る。


完全にまひろや冬村かえでと一緒じゃないかと笑ってしまった。
そして言うだけ言ってどこかへと走り去ってしまう。
ところで今回の死体処理には幾らかかったのだろうか?「ベイビーわるきゅーれ」1作目の最後で須佐野は2200万円という金額を口にしているが、今回も私怨な事となかなかの人数と昼間の繁華街ということもあり、それ以上の金額を払ったと思われる。よくそんな金額が払えたものだ。
そしてその翌日、残るボディガードの片割れと遭遇する事でこの映画最大の見せ場が訪れる。
こちらは狂犬と違って素手でのファイトを得意としていて、偶然公園で出会って絡んできた真中なんかは一瞬でボコられていた。
最初は甘く見て余裕を見せていた国岡だが、その実力に圧倒され、素直に彼を認める発言をする。
そして国岡が本気になったところでタイトルバックが出現する。これが実に恰好良い。


もちろんカットも繋ぎ合わせているだろうし、フィクションではあるのだが、この場面は何と8分を超える。このアクションシーンは自分が観た映画の中で一番凄まじいと思う。
終盤でボディガードは「もうやめよう」と言うのだが、国岡は手を緩めず完膚なきまでに叩きのめす。
殺しのプロとして負けることは死を意味することだと言わんばかりの、非情に徹した国岡の覚悟をまざまざと見せられた。
そしてそのあと国岡は事の発端である女社長を殺す決意をする。
いや、それまずいんじゃね?と思った矢先に監督が同じ質問をしたので、自分の感性がまだ麻痺してないことに安心した。
実は冒頭で金額の安さにこの女社長を殺す案件をスルーしていた国岡だが、ここに来て喜んでその依頼を請けたらしく、調達人から武器を譲り受けて(なんと無料!)女社長を始末する。
調達人からの”伝説になってこいよ”の一言が痺れる。
国岡は取材に対して殺す相手を”誰なのか、何のために殺すのかもわからない”と言っていたが、この女社長だけは明確に殺す理由があったという事になる。


最後は取材陣と一緒に初日の出を見に来た国岡が「金もなくなったし、信用もなくなったし・・・今年は切り替えてやっていきましょうか」と語り、東京から仕事の話が来ている事を明かすところで終わる。
そしてエンドロール後に例の母親との裁判に勝った報告をするのだが、家庭裁判所での民事訴訟らしく、殺人そのものは何も問題になっていないのがわかった。(いやこれどこの国の話だよ・・・)
最初こそドキュメンタリーの体を保っていたが、途中から(ホワイトベアー辺り)その決まり事も無視してしまっていたのだが、ドキュメンタリータッチにした事でこの映画の面白さとシュールさが担保されていることに間違いはない。
絶対に仲良くはならないだろうけど「ベイビーわるきゅーれ」の二人との絡みが観たいのは自分だけではないと思う。

| 監督 | 阪元裕吾 |
|---|---|
| 脚本 | 阪元裕吾 |
| 出演者 | 伊能昌幸 上のしおり 吉井健吾 松本卓也 でん一徳 |
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今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
「国岡シリーズ」は当分続いて行くらしいので楽しみに追いかけて行こうと思います。
ちなみにエンドロールの出演者紹介に鈴木一真の名前があったんですが、どこに出演してたかわかる方いらっしゃいますか?




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