
大ヒット映画「13日の金曜日」の流れを受けて当時量産されたマイナーなB級ホラー映画の内の1作。
当時小学生だった自分が友達と二人勇敢にこのスラッシャー映画に挑んだ結果はー!?
当方は無類のホラー映画好きである。80年代の有名どころはほぼ見たと思う。
これは当時小学校3年生だった時のホラー初体験をきっかけに、いかにしてホラー映画好きになって行ったかの記録である。ほぼ映画の内容には触れていないので苦手な方も安心していただけると思う。
それまでホラー映画と言うと「ドラキュラ」や「狼男」「フランケンシュタイン」等、怪物くんの三人のしもべみたいな感じのものが主流だったように思う。
当時はテレビで毎日のように映画が放送されていて、時々ホラー映画も観ることが出来た。
大抵は夜20時か21時くらいから始まり23時くらいで終わるのでなかなか睡魔との戦いに勝てずに途中で断念することも多かった。
そして時々驚く事に真昼間からホラー映画を堂々と流すことさえあった。
その頃は1970年代後半から始まったホラー映画ブームの真っただ中で「ジョーズ」や「エクソシスト」、「オーメン」などホラー映画の金字塔とも言える作品がどんどん世に出て来て、テレビなどでも時々放映されていたことを憶えている。



話題の映画が放送された時などは次の日学校ではその話で持ち切りであったので、睡魔に負けて見逃してしまった映画も今で言う”ネタバレ”を教えてもらうことが出来た。(ちなみに大きくなってから改めてその作品を観たら教えてもらった内容と全然違うこともあったのはご愛嬌)
そんな中彗星のごとくホラー映画のそれまでの流れを変えてしまうとんでもない映画が現れた。「13日の金曜日」である。
この時期には「ハロウィン」や「シャイニング」等の今でも色あせない名作がどんどんと出て来ていたのだが、「13日の金曜日」は別格であった。何せ人体が破壊される描写がこれでもかと出て来るらしいのだ。グロいものを観たがる子供達にとっては大好物である。
それまでもグロい描写はなくもなかったが、どちらかと言えば「サイコ」等に代表されるサスペンス系や「サスペリア」等のオカルト系が主流であった。TVでも心霊特集や超能力特集がよく放送されていたと思う。
実際に「13日の金曜日」を観ることになるのはもっと後になるのだが、”ヤバい映画がある”と同級生の間ではものすごい妄想が膨らみ続けていて、本当に観たという猛者まで現れたが、要領を得ない説明のため実は観ていないんじゃないかとの噂まで流れた。



そんなほのぼのとした夏のある日の事であった。同級生のE君(仮)が家から新聞を持ってきた。いつになく興奮している。
”すごいものを見つけた”と見せてくれたのがこれである。

これはカラーチラシであるが、実際の新聞広告は白黒でさらに禍々しいオーラを放ちながら妄想たくましい小学生の男子二人をたちまち虜にしてしまった。
この広告の下に窓のようなところから逃げ出そうとしている女性がいるが、実際にはこんな場面はない。当時の日本ヘラルドの社員らしい。今なら訴訟物の詐欺広告である。しかも主役の殺人鬼の名前も当時は”バンボロ”となっている。(現在は”クロプシー”の名前で統一されている。この記事内では当時の自分たちに敬意を払って”バンボロ”と呼ぶことにする)
しかしそんなことを知る由もないE君(仮)と自分はなんとかしてこの映画を観る方法はないものかと相談を重ねた。
ある時E君(仮)が当時小学生の自分たちにとってはとんでもない都会だった”堺東”の映画館で上映しているという情報を仕入れてきた。憧れてやまないものが手を伸ばせば掴める距離にあるという事に胸は高鳴った。
E君(仮)と早速計画を立てた。計画と言っても夏休みの平日に二人でバスに乗って堺東まで映画を見に行くというだけの事なのだが、何せ田舎の小学生二人、徒歩か自転車で行ける距離しか出かけたことのない自分たちにとっては一世一代の冒険であった。


問題は先立つものがない。日々貰っているお小遣いなどすぐに駄菓子屋で使い果たしているので貯金などあるはずもなく、ここは母親に交渉して資金をゲットする必要があった。
まずは正直に映画を見に行きたいと話を切り出した。E君(仮)はよく家にも遊びに来ていたので誰と行くかの説明は楽だった。
しかし母親は小学生二人でいくら田舎とは言え繁華街に出かけることに難色を示した。それならば休みの日に父親か姉と一緒に行けばいいと言われた。
実際に1年前に姉二人に連れられて「銀河鉄道999」を観に行った。当時の家庭ではなかなか映画を観に行くという行事がなかったので(基本は”すぐにTVで放送されるでしょ?”のスタンス)この超話題作を観た自分は夏休み明けクラスのヒーローだった。
別にそれでも良かったのだが、問題は観る映画の内容である。間違いなく家族には却下されるであろうことは目に見えていたのでその提案には乗ることはできなかった。
きっとE君(仮)もこんな風に母親と戦いを繰り広げていると思うとこちらも負けてはいられなかった。何とか食い下がって、”映画を観たらすぐに帰ってくること”、”お釣りは全部返すこと”を条件に許しを得、使い込む恐れのある事から当日に資金を渡してくれる約束を取り付けた。(ちなみに映画は「東映まんがまつり」を観に行くと苦し紛れに言った気がする)



そして当日である。E君(仮)の家まで自転車で出かけ、合流した後最寄りのバス停まで行き二人でバスに乗った。当時自分はたいしてファンでもないのに阪神タイガースの帽子をかぶっていた。(父親が熱狂的なタイガースファンであった。ちなみに自分は今も野球にあまり興味がない)
E君(仮)も自分も最初は興奮気味であったが、現場が近づくにつれて緊張からかあまり言葉を交わさなくなった。
バスが堺東に到着し、目当ての映画館まで二人で歩いて行く。小さな冒険の始まりに心臓がバクバク言っている。
映画館のある堺東商店街を行くと今で言うミニシアターくらいの規模の映画館に到着した。すぐ近くにポルノ映画館があるという今では考えられないロケーションに緊張はマックスまで高まった。
当時の映画館は現在のように上映ごとの入れ替えはなく、一日中でも映画を観ることが出来た。そのせいか当時は2本立てや3本立てで映画を上映することも多かった。(「死霊のはらわた」と「プロジェクトA」の2本立てと言う夢のような組み合わせも有った)



入口の看板には手書きのペイントで”バーニング”の絵が描かれていた。壁にはガラスのショーケースのようなものが設置されていて、映画の場面写真が飾られている。途中で若い女性のシャワーシーンが出てくるようでヌードの写真まであった。今では考えられないことである。
そしてここで最大の問題が起きる。二人ともビビってしまったのだ。さすがに観るのを止めようとは言い出さないが、看板や広告で見た脅し文句がここにきて小学3年生の二人を計り知れない恐怖とプレッシャーで飲み込んでしまった。
二人とも平気な顔を装うものの、どちらも”入ろう”と言い出せないまま時間だけがいたずらに過ぎて行き、野球帽をかぶった小学生たちはヌードの写真をただ眺めるしかなかった。
母親を必死に説得したあの日が脳裏をよぎったその時とうとうE君(仮)が”入ろう”と言い出した。もうこうなったら覚悟を決めて行くしかない。絶叫系のお化け屋敷にでも入る気持ちでチケットを購入して奥へと進んで行く。なぜかこの映画館はトイレの芳香剤の匂いが充満していたことが真っ先に思い出される。
ドキドキしながらロビーを抜けて上映中の扉を開けると絶賛スプラッターの真っ最中であった。
思わず反射的に一度扉を閉めて息を整える。来てはいけない場所に来てしまったような後ろめたさとわずかな高揚感を覚えた。
二人とも意を決してもう一度扉を開けるとどうやらスプラッターシーンは終わったようだった。そそくさと入り込んだ二人は見事なほどにガラガラの館内に潜り込んで恐怖を少しでも和らげようと一番後ろの席へと向かった。
無事に一番後ろの端の席に着いた二人は帽子を目深にかぶり、残酷なシーンとドキドキするシーンでは帽子の鍔の先からチラッと覗くようにして映画を鑑賞した。
ちなみにこの「バーニング」なる映画は完全に「13日の金曜日」の二番煎じ的な作品で、「夏のキャンプ場」「若い男女のグループ」「正体不明の殺人鬼」「殺人鬼の悲しい過去」というお約束をふんだんに散りばめた素晴らしいものとなっている。


トム・サヴィーニのこれでもかと見せる特殊メイクによる過激なゴア表現と物語には大して必要ないと思われるお色気シーンと若者たちの馬鹿さ加減全開と若い女性の悲鳴で満ち溢れていた。
何年か前にどうしても見たくなってブルーレイを手に入れたのだが、想像以上にひどい映画だったのがショックだった。思い出はなんて美しいんだろう。
まずバンボロが燃やされる必然が描かれていなく、ただの無軌道な若者の悪戯の犠牲になったようにしか見えなかった。そのせいで娼婦にも怖がられてしまい、思わず殺すしかないくらいに絶望的な姿になってしまった。これは復讐しますわ。


しかも主人公のイケメンはバンボロに火をつける悪戯をしたグループの中の一人。キャンプファイヤーで”バンボロの呪い”みたいな話をするのだが、自分がおイタしたことには一切触れずになかった事のように話している。サイコパスか?お前が一人殺されとけばいいんじゃないのか?
”バンボロはキャンプに来た子供たちを虐めるから、懲らしめるために火をつけたら事故っちゃった”等の話をしているが普通虐めてたりしてたら訴えられて解雇されるぞ?という話。考えるほどにバンボロが憐れに思えてくる。
出てくる男どもはアッチの事しか考えてなく、そのせいで女の子が犠牲になったことも気付かずに犠牲者面して殺されていく。かなりの胸糞野郎共である。
とは言えバンボロちゃんが筋違いな復讐をしていることには間違いなく、なぜ訴訟大国のアメリカで武力による制裁を選んだのかが謎である。これ間違いなく裁判したら勝てる案件だから人権派の弁護士が喜んで弁護してくれるんじゃないかとか考えてしまった。


あと作中弱いヒョロガリの男の子を絵に描いたようにイビる虐めっ子が出てくるが、こいつに至っては殺されるのを逆に待ちわびてしまった。”バンボロナイス!”的な感じで。
あとはもうテンプレート通りなのだが、”おや?”と思わされるのがこの作品では”ファイナルガール”がいない。むしろ生き延びた人間は多い。それもバンボロに同情してしまう要素になっている。
しかし”1度殺したはずの殺人鬼がもう一度襲ってくる”や、”不気味なバックミュージックが流れていると要注意”、”殺されそうで殺されない演出を何度も思わせぶりに入れてくる”等の基本注意事項は守って作られているのでそこは評価したい。
そんなちょっと残念なところも見え隠れする本作ではあるが、小学3年生の子供には間違いなく刺激が強かったのも事実。
おっかなビックリながらもそれでも最後まで見届けたときは勇者にでもなった気分だった。E君(仮)も謎の充実感に満ちた顔になっていたのを今でもよく憶えている。
そのまま続けてもう一度最初から観たときはすでに一度観ているし、結末も判っているのでかなりの余裕をもって観る事が出来た。


観終わった後は興奮冷めやらぬまま当時は禁止されていたゲームセンターでお釣りをほぼ使い果たすまで遊んで帰って怒られたのは言うまでもない。
こんな風にひと夏の冒険を乗り越えた二人だったがこの話には後日談がある。
もう時効だと思うので話すが実はE君(仮)は母親の財布からお金を抜き取るという悪癖があった。
夏の日の冒険という死線をくぐり抜けた二人はどうしてもあの日の甘美な刺激と達成感が忘れられずにいた。
とは言えそうそう何度も許しを得てお小遣いがもらえるほど世の中は甘くない。そんな悶々とした日々を過ごしていたある日E君(仮)から悪魔の囁きがあった。
上記の通り怪盗ルパンの如く現金を手に入れたE君(仮)がもう一度映画を観に行こうと誘ってきた。もちろん「バーニング」である。お金の出所など気にもならずに口車に乗ってもう一度観に行くことにした。
母親にはE君(仮)の家に遊びに行くとだけ言って観に行った。なぜならお小遣いを貰う必要がなかったので。
そして2度目の冒険に行ったのだが、もちろん前回ほどの高揚感も充実感もない。ちなみにこの作品には無名な頃のホリー・ハンターが出演している。


今となっては悪いことをして遊んでも楽しくはないんだなと知ったほろ苦い夏の思い出となった。
E君(仮)とももう40年くらい会っていない。今はどこで何をしているのかもわからない。
その後無事にTVで「13日の金曜日」を観るのだが、この映画で変な耐性が付いたせいか周りの同級生ほどは興奮することも怖がることもなかった。
それ以降あの日感じた恐怖感を求めてホラー映画を見続ける日々が今も続いている。正直「リング」とか何が怖いのか解らない。
あの夏の日は決して幻などではなく今でもこの胸の中で燦然と輝いている。
あんな日にもう一度出会えることをずっと求め続けているのである。

| 監督 | トニー・メイラム |
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| 脚本 | ピーター・ローレンス ボブ・ワインスタイン |
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| 出演者 | ブライアン・マシューズ リア・エアーズ ブライアン・バッカ— ホリー・ハンター ルー・デヴィット |
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いつもと違う趣向で書かせていただきました。
今後はもっとちゃんとした映画紹介をして行きたいと思います。
E君(仮)元気かなぁ・・・








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